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下人は、頸くびをちぢめながら、山吹やまぶきの汗袗かざみに重ねた、紺の襖あおの肩を高くして門のまわりを見まわした。雨風の患うれえのない、人目にかかる惧おそれのない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子はしごが眼についた。上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。下人はそこで、腰にさげた聖柄ひじりづかの太刀たちが鞘走さやばしらないように気をつけながら、藁草履わらぞうりをはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
 それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子ようすを窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿うみを持った面皰にきびのある頬である。

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PONIMECLUB3

FOR THE SOPHISTICATED PEOPLE